お米のおいしさをキープする保存法や正しいお米の研ぎ方など、意外と知らない「お米のきほん」を、山形県の小さなお米屋さん(有)阿部ベイコクさんに教えていただきます。ちょっとした工夫や知恵で、いつものご飯をもっとおいしく。知って楽しいお米の情報を月に1回お届けします。
「冬のお米研ぎは冷たくてツライ!お湯じゃダメなの?」お湯でお米を研ぐのはNG、と聞きますが実際のところ本当なのでしょうか。そこで、山形県の小さなお米屋「阿部ベイコク」が実験してみました。
今回は冷水・常温・ぬるま湯・温水の4つの温度の水で、お米を研ぎ洗いし、炊きあがりの違いを食べ比べしています。果たして、どんな結果になったのでしょうか?ぜひ、ご家庭でお米を研ぐときの参考にしてみてください。
お米にお湯を使ってはいけない理由として、次のようなことが言われています。
ヌカ臭くなる:吸水力が高まり、ヌカの臭みも吸収してしまう
おいしくない:うま味が溶け出す、ツヤがないご飯になる
食感が悪くなる:芯が残る、ベチャベチャご飯になる
本当かどうか?お湯で研いだご飯を実際に試食して比較検証してみます。なお、お湯といっても正確に何℃以上がNGなのかはよく分からないので、次の4つの水温を試します。
温水42℃:熱めのお風呂くらいの水温、湯気がすごい
ぬるま湯30℃:ほんのり温かさを感じる水温、冬場は一番快適かも
常温20℃:冷たいけど冬でも十分我慢できる水温
冷水7℃:手を浸しておけないほどキンキンに冷たい水温、冬はツライ
実験に使用するお米は「山形県産つや姫」。炊飯器は9千円ほどのリーズナブルな製品です。
研ぎ方については、すべて同じように行っています。自動吸水タイプの炊飯器でしたので、お米を研いで即炊飯スイッチをONにしています。
各炊飯器でお米3合を炊き、スタッフ6名が試食します。
※採点するスタッフには実験内容を一切伝えていません。単純な食べ比べと説明しています。
採点項目はツヤ、香り、味、食感の4つ。それぞれ5点満点で評価してもらいます。結果は以下のとおりです。
結論から言うと、20℃以下であれば十分美味しく炊きあがります。お米の美味しさを限界まで引き出したい人は5~7℃の冷水がおすすめです。
今回の実験では、わずかな差ではありますが「水の温度が低いほど、ツヤ・香り・味が良い」という結果になりました。
「冷水7℃」はふっくらツヤツヤ、美味しそうです。一方、「温水42℃」は冷水に比べツヤがありません。
「冷水7℃」「常温20℃」は甘い香りが強く、口に含んで鼻に抜ける香りもとても良いです。「温水42℃」「ぬるま湯30℃」は香りが弱く感じます。ヌカ臭さはありません。お米研ぎの時点で、湯気とともにヌカ臭がモワッときたので心配していましたが、素早い水替えが良かったのかもしれません。
「冷水7℃」「常温20℃」は、つや姫の濃厚な甘み旨みが口いっぱいに広がります。「温水42℃」「ぬるま湯30℃」は普段よりよく噛むことで甘み旨みが出てくる印象です。
評価項目で1番大きく違っていたのが食感でした。
「冷水7℃」「常温20℃」は軟らかく、粘りがあり、品種の特性をしっかり引き出せています。
「温水42℃」「ぬるま湯30℃」は硬く、粘りが弱いです。芯が残るというほどではありませんでしたが、長時間保温で水分が飛んだご飯のような食感です。
ご飯をよく噛むと甘く感じるのは、唾液に含まれる「アミラーゼ」という消化酵素により、デンプンが麦芽糖に分解されるからです。
お米にも数種類のデンプン分解酵素が含まれていて、炊飯中にデンプンからが生成されたブドウ糖や麦芽糖がご飯の「甘み・ツヤ・香り」になります。
この酵素がもっとも活発に働く水温が40~60℃といわれています。
「温水42℃」「ぬるま湯30℃」で実験したケースでは、お米を研ぐ段階で酵素の働きが活発になり、せっかく生成された糖がとぎ汁に流れ出て、捨ててしまっていたことになります。
これが、水が温かいほど「ツヤ・香り・味」の採点が低かった理由と考えられます。
お米は炊飯することで、やわらかく粘りがあるご飯になります。
この変化を「デンプンの糊化(こか)」といい、お米の中心部にまで水が行きわたり、糊化がしっかり進んだご飯が良食味とされています。
今回の実験で「温水42℃」「ぬるま湯30℃」は、お米の中心まで吸水できていなかったことが、硬く、粘りが弱いご飯になった原因と思われます。
冷水より、温水の方がお米の吸水が速くなる、ということは広く知られています。
冷水→お米の吸水が遅い
温水→お米の吸水が速い
今回の実験ではお米の研ぎ洗い後、すぐに炊飯器のスイッチを押しています。
この場合、吸水が遅いはずの冷水で炊いたご飯が、お米の中心部まで水が行きわたらず硬くなるなら理解できます。
しかし、結果は温水の方が硬く炊きあがりました。
理由として次の情報もありましたが、定かではありません。
・お湯で外側がふやけて、中まで水がいかない
・表面が糊化して吸水をガードしてしまう
念のため「温水42℃」でお米を研ぎ洗いし、1時間浸漬したあとに炊飯してみましたが、やはり結果は同じように硬く粘りのないご飯となりました。
水の温度が冷たい方がお米の吸水率が高い、という実験データがあります。
5℃,20℃浸漬の吸水率と40℃浸漬の吸水曲線が交差する現象が観察され,平衡状態まで吸水させると,5℃浸漬の吸水率が最も高くなった。
出典:環境人間学部 先端食科学研究センター
https://www.u-hyogo.ac.jp/research/seeds/symposium/2016/pdf/803h28kaorusakamoto.pdf
お米の吸水率が高いと、次のようなメリットがあることも報告されています。
・粘りが増加し硬さが減少する
・吸水率が1%変わるだけで大きく食味が良くなる
・水分の蒸発量が少なくなり保存性が向上する
最近の炊飯器は、炊飯工程に自動吸水時間が組み込まれているので浸漬なしでも問題なく炊けます。
しかし従来のように、夏場は30分~1時間、冬場は1~2時間程度、浸水してから炊飯した方がよりおいしく炊くことができます。
各メーカーの炊飯器の説明書には次のような「お湯NG」の記載があります。
お湯を使うと、吸水力が高まるためヌカの臭みも吸収して「においの原因」や、温度差でお米が割れてしまい「べたつき・ベチャベチャの原因」にもなってしまいます。
今回の実験では、水温が低い方が美味しいご飯が炊きあがるという結果となりました。
また「冷水7℃」と「常温20℃」は体感温度は大きく違うのに対して、食べ比べてみるとそれほど大差ありませんでした。
ということで結論です。
お米の美味しさを限界まで引き出したい人は「冷水5~7℃」 冷水はツライ・イヤだという人は「常温15~20℃」 がおすすめとなります。
※本記事は、 (有)阿部ベイコクのwebコラムからの転載記事です。
画像提供:Adobe Stock
山形県庄内地方にある小さなお米屋「(有)阿部ベイコク」です。地元農家様との信頼、米屋ならではの精米技術を武器に、新鮮なお米を全国へ。県産ブランド米「つや姫・雪若丸・はえぬき」をはじめ、価格帯に合わせリーズナブルなオリジナルブレンド米も多数ラインナップ。米どころ山形から皆さまの食卓へ、美味しい笑顔をお届けします。